歯茎が下がる原因とは?歯科衛生士が正直にお伝えする「わかっていること」と「わかっていないこと」

濱﨑 あゆみ(歯科衛生士)

歯茎が下がるってどういう状態?

「歯みがきのしすぎで歯茎が下がる」——多くの方がそう思っています。でも、その根拠を問われたとき、歯科医療の世界は意外なほど曖昧な答えしか持っていません。最新の研究をもとに、「わかっていること」と「わかっていないこと」を正直にお伝えします。

歯茎が下がると、ふだんは歯茎の中に守られている歯の根っこの部分が外気にさらされます。根っこの表面はエナメル質より薄く、刺激に弱いのが特徴です。そのため冷たい飲み物がしみたり、汚れがつきやすくなって虫歯リスクが上がったりします。

見た目にも影響し、歯が細長く見えるようになります。一度下がった歯茎は、自然には元に戻りません。だからこそ予防が重要なのですが、「何を予防すればいいか」の答えが、実は単純ではないのです。

最も見落とされやすい原因——骨の欠損(デヒセンス)

歯茎が下がる話をするとき、多くの場合「みがき方」から始まります。しかし研究が示す最も根本的な原因は、実は歯の下にある骨の状態です。歯を支える顎の骨が、歯の根っこに沿って一部なくなっている状態を「デヒセンス」と呼びます。

骨がない部分の上には、ごく薄い歯茎しか存在できません。その結果、ちょっとした炎症や圧力でも歯茎が下がりやすくなります。重要なのは、この状態はほとんどの場合、自覚症状がないということです。

普通のレントゲンでも見えにくく、3D撮影(CBCT)で初めて確認できることが多いのです。「なぜかこの歯だけ下がりやすい」という訴えの背景に、デヒセンスが潜んでいることがあります。

その他の原因——4つの要因

骨や歯茎の薄さは体質的な要因が大きく、研究で最も一貫して示されているリスク因子です。また、歯茎の炎症(歯周病)は慢性的に骨と歯茎を溶かします。体質的リスクと重なると、特に進みやすくなります。

みがき方や歯ブラシ圧は「影響する」と言われますが、直接的な因果関係の証明はまだありません。加齢との相関は明確ですが、「加齢そのもの」が原因なのか「炎症の蓄積」が原因なのかは分けにくいのが現状です。

「ゴシゴシ磨きで歯茎が下がる」——証拠の強さを問う

この分野の研究の多くは、歯ブラシメーカーが資金を出しています。電動歯ブラシの有効性を示す有名なコクランレビューを含め、企業による資金提供が確認されています。企業資金の有無は研究結果の方向性に影響することがあり、批判的に読む必要があります。

利益相反のない研究者による系統的レビューの結論は「証拠不十分」でした。横断研究では「よく磨く人ほど退縮が多い」という関連が見られますが、これは因果関係を意味しません。「もともと歯茎が気になる人ほど熱心に磨く」という逆の解釈も成り立ちます。

電動vs手みがきのメタ分析では、1年間の退縮量の差は平均0.20mmでした。統計的には有意ですが、0.20mmが臨床的に意味ある差かどうかは別問題です。さらに対象は「すでに退縮がある部位」に限られており、一般化には限界があります。

歯茎が下がりにくい人の特徴

骨と歯茎が厚い体質の方は、デヒセンスがなく骨量が豊富で、炎症や刺激への耐性が高いです。これは生まれつきの特徴が大きく関係しています。また、歯茎のかたい部分(角化歯肉)が広い人は、幅が1mm広いごとに退縮リスクが約36%低下するという研究もあります。

歯茎の炎症がない状態を保つことも大切です。プラーク管理が行き届いており、歯周病がない状態が理想的です。定期的なメンテナンスで炎症の早期対処ができますが、退縮そのものを防ぐ直接的な証拠は限られています。

正直にまとめると

確かなことは3つあります。骨の欠損(デヒセンス)や歯茎の薄さなど、体質的条件が退縮の根本リスクであること。炎症(歯周病)は退縮を進めるため、炎症ゼロが最も合理的な予防策であること。そして、一度下がった歯茎は自然に戻らないことです。

不確かなこともあります。「みがき方が退縮の原因」という直接証拠はまだ存在しません。電動歯ブラシが退縮予防に有効かどうかも、資金源バイアスの問題があり断言できません。デヒセンスが退縮に直結するという長期データもまだ限られています。

「みがき方を直せばいい」という単純な話ではありません。まず自分の骨と歯茎の状態を知ること——それが、本当の意味での予防の出発点です。気になる方はぜひご相談ください。


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執筆者:濱﨑あゆみ

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